エス夫は何と、19年と7ヶ月…あと少しで20歳の節目というトコロまで強靭な生命力を示した。
さすがに晩年の紀州魂は目も耳もヤられ、門を開ける音では起き出さなくなった。が、傍に行き「エス夫、元気?」と声をかければぺロンと膝を嘗める。何度か大病をして皆が覚悟を決めた時でも、そのたび彼は復活した。まるで…何かやり残したことがあるかのように、相変わらずノタノタ父の後を歩いた。
…その時は静かに訪れた。まだ明けやらぬ霜月のシンと冷えた朝…。…彼は動かなくなった。虫の知らせか母が様子を見に行った時にはドタンと横倒しになって、その鼓動は途切れ途切れだった。「お父さん!大変っ!エス夫が…。」バタバタと駆け込んで来た父が必死に心臓マッサージをすると微かに瞼が開いた。「エス夫、しっかりしなさい!」ガンガン押されながらも、やっとの力で前足をあげる。「なんだ?握手か?」優しく握る。「…分かったよ。ありがとうな。…もういいよ…よく頑張った。本当にありがとう…。」長い吐息を最期に彼は逝ってしまった。
エス夫の骨は、思ったより大きくて骨壺も人間の子供サイズだった。「まぁちゃん。一つだけ遺言していいか?」「なあに?」「お父さんが死んだら…同じ骨壺にエス夫の骨を少し入れてくれないか。」「そっ…それは…。」「頼む。お互い寂しがりだからな…。」「……わかった。約束する。」
それから3年後、父は亡くなった。私に課せられたミッションは…果たしてご想像にお任せします。
- 2010/09/01(水) 14:52:40|
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